子育て支援者「15のまなび」   講座日程レポート
(15) 1/30(土)  朱まり子
子育て支援者の基本となる学びを構築するために

15のまなび 朱まり子さん「子育て支援がなぜ必要なのか」

1月30日(土) 10:15~12:15 講座
12:50~14:00 ランチしながら講師を囲んで話しあい

「子育て支援がなぜ必要なのか 
親子の関わりの大切さを理解し“お母さんのお母さん”みたいな支援者になろう」
講師:朱まり子さん 子育ての文化研究所 代表

2015年度15のまなびもとうとう最終回を迎えました。その最後を締めくくった講師は、15のまなびを始めて3年、計45回のまなびの場を生みだしてくれた朱まり子さんにお話を頂きました。皆さんもご存じの通り、朱さんは子育ての文化研究所の代表を務めておられます。当日は、20名を超える方が他府県からも足を運んで参加して下さいました。

朱さんは京都市で生まれ育ち、大学では児童文化学を専攻されました。出版社に内定が決まっていたそうですが、当時のオイルショックで内定は取り消しとなり、大学院に進学されました。その後、幼稚園勤務、結婚、転勤、子育てをされてきました。京都に戻ってからも子育てサークルやNPOの法人化、つどいの広場施設長など子育てに関わってこられました。その中で人との繋がりを感じ、また、子育ての「文化」の希薄さを感じられたようです。子育ての「文化」ということについて、抱き方、語りかけ方、遊び方、オムツ替えなど子育てにかかることは今まで学んできたようにたくさんあります。親から子へ、繰り返された事で出来てきたものが子育ての「文化」になりますが、それが今は消えかけていると言う問題提起から始まりました。子育ての現場でそのような状況になっていることが、この3年間でわかってきたと仰っていました。現在はその問題をどうにかできないかと子育ての文化研究所を立ち上げたり、地域の子ども達の育ちのための活動(NPO法人山科醍醐こどものひろば 「町たんけんチーム」)をされたり子育てプログラムのファシリテーターをされるなど、多岐にわたる現場で子育て支援をされています。

子育ての「文化」が消えかけていることの問題提起の次の問いかけは「母性って何?」ということでした。今まで子どもが生まれたら“女性は母になる”と言われたり、お腹に赤ちゃんができたら“母性が芽生える”とまで言われてきました。しかし、子どもを育てると言う行為を積み重ねれば母性が生まれるのではなく、その行為の積み重ねこそが子育ての文化なのだと先生は仰っていました。“子育て”と一言で言ってもれは一様ではなく、民族や生活様式、行動様式によって違いはあるとのこと。違いはあるものの、子育てと言う行為が脈々と続いてきた結果としての“文化”が子育ての文化になるそうです。
しかし、その子育ての「文化」が消えかけていると言う事は、子育ての「文化」、受け継がれてきた子育てが断絶されてしまっているということでしょうか。ずっと昔から祖母、母、子へと受け継がれ伝えられてきたはずですが、それも現代は意識をしないと繋がらないし繋げないのだとお話し下さいました。それこそ一昔前は意識をしなくても生活の一部、人生の一部として受け継がれたものだったかと思います。それが意識をしないと受け継がれなくなってしまったのは社会や生活様式、情報技術の変容が大きく関係しているのだと思いました。幼い子どもを伴う生活は行動範囲を制限されます。一昔前ならそれでも親は畑に働きに出てきょうだいや祖父母がみていた環境が多かったでしょう。しかし現代社会に照らし合わせるとその状況は孤立を招くのでしょう。それが現代の子育ての特徴だと仰っていました。また、情報技術、SNSが発達し、親が獲得すべき育児の知識や技術が膨大な量となり、それに比例して戸惑いや不安が生じやすくなったそうです。赤ちゃんでも1人の人、だからこそ戸惑いがあり、それが直接赤ちゃんに向けられてしまうとのこと。そして、自分が子どもを生むまでに赤ちゃんの世話をした事が無い人が増え、経験のないことを求められるリスクは高く、そのリスクを母親1人が背負っている状況にあると教えて下さいました。このように明らかに違う子育ての環境から「今」、「子育て支援」が必要なのだと話され、途中、育児休業に関する統計などを紹介される中でその必要性を語って下さいました。

そこで、育児不安を解消するためのポイントについて4点挙げられました。
1点目が「母親絶対」の子育てから解放されるためには、ということ。未だに3歳児神話に縛られている親も多いようです。その背景には3歳児神話をうたう祖父母の存在もあるようでした。
2点目は、母親達が追い詰められている現実は誰がつくっているか、ということ。先ほどの統計からもわかるように父親の育児参加率は全体でみると高いとは言い難いです。この現実を打開するには父親をどれだけ変身させるか、社会の認識・見方をどれだけ変えられるかだと感じました。
3点目は、子育ての負担についてです。布おむつから紙おむつへ、ベビーフードやベビーカー、多様なおもちゃの化学製品の普及により、ある視点から見ると子育ての負担は減っているようにも見えます。しかし、それでも「辛くなっている子育て」という現実があると述べられました。
そして、「働きながらの子育て」と「子育てに専念」とではどちらの方が時間が無く、育児不安が多いのか、それはどうしてなのか考えることも重要なポイントになると教えて下さいました。専業主婦の方が子育て負担を感じる率が高い統計結果もありました。また、「育児でイライラする事は多いですか?」という質問に対して子どもの年齢が上がるほどに「はい」と回答する人が多い統計結果があることを紹介して下さいました。それは、産まれた当初は言葉がわからなくてイライラする事があっても、産まれてきた喜びがあるそうですが、大きくなるにつれイライラも大きくなっているとのこと。この事も子育ての負担について考えるポイントになると仰っていました。子育ての「負担」=「責任」になってきているようで、自分だけで育てている、という意識の高さを表しているとのことでした。

このような状況から子育てについて、昔はもう少し楽だったが、何がどう変わったのか、子育てを巡る変化についてお話し下さいました。授乳やおむつにも変化がありますが、育児常識など祖父母の子育て時と比較すると、その内容は大きく変化していました。本当はそれほど変わっていないのに「今は昔と違うから・・・」と引っ込んでしまい、祖父母が子育ての助言をしにくい状況を生みだしているようでした。また、知識の求め方も変化しており、情報源がインターネットやSNSになってきているとのこと。インターネット検索はピンポイントでわかりますが、他との関連が得にくく、全体の発達が見えにくい点を指摘されました。例えば、「歩くのが遅い」という事に関して検索すると、検索者を不安にさせないように「心配はいらない」「ハイハイはなくてもいい」というワードのみ出てくるそうです。しかし、今までのまなびをみてもわかる通り、人の育ち、発達においてハイハイは必要です。このようにインターネット検索だと人の育ちの一部分を切り取って浮き上がってくるため、初めての子どもの世話が自分の子ども、という親はたくさんの「切り取られた一部分」に翻弄され惑わされ、余計に不安になるのではないかと感じました。それにプラスして育児用品の増加も親を翻弄させる一つのようです。多様化、増加した育児用品を選ぶ基準が、その子にとって本当に必要かどうかではなく、人が持っているから(逆に持っていないから)ということになってきているのだと指摘されました。
次に女性のからだに視点を合わせて昔と今との変化をお話し下さいました。生活習慣等から出産や育児に耐えるだけの体の丈夫さを持たない女性が増大しているそうです。それは欲しい時に赤ちゃんを産む事が出来ない女性が増加しているとのこと。しかし昨今の虐待報道の中で「(子どもが)できたから産んだ」という発言が多く、その発言から子どもは簡単にできると思わせるところに問題があるのではないかと仰っていました。また、社会の変化に焦点を合わせると、祖父母世代との関わり、地域の繋がりの希薄化が大きいものでした。今は隣の部屋に住む人の顔も名前もわからない状況が多く、「ちょっとしたこと」を教えてくれる人が殆どいないとのこと。またその地域に馴染まずシャットアウトしてしまうため祖父母も助言がしにくくなり「地域文化」が消失してしまっていると仰っていました。以前のまなびでもありましたが、江戸時代までさかのぼれば食、住が一緒だったのでみんな家に居り、父親も子育てに参加していました。しかし、それがこのような変化から「子育ては母親であるわたしがちゃんとしないといけない。人に頼ってはいけない。」と思いこんでいる人が多いとのこと。

このような変化を受け、先生は受け継がれてきた「子育ての文化」を子育て世代に意識的に伝える必要があると気付かれたそうです。それは虐待の未然防止になり、何より子育てが楽しくなると仰っていました。それは今までと違う視点で子育ての知識や方法を知る事であり、昔から受け継がれてきた良きものを使う事とのこと。
先生は最近出会った、電車の向かい席に居た親子(4歳ぐらいの子ども1人と母親)のお話をして下さいました。その子どもはおもちゃで遊んでいましたが、母親は全く声かけもせず目線も合わせなかったとのこと。しかし子どもがおもちゃに飽きて他のおもちゃを取ろうとするとかばんの中からさっと他のおもちゃを渡したそうです。それでも渡す際には子どもと目を合わしていなかったそうです。その母親は子育てに手抜きをしているわけではないが、子どもに向き合うこともなく、子育てへの気持ちが少しずれてしまっていたのだとお話し下さいました。
そのような「少しずれている子育て世代」が多くなってきている今こそ「子育ての文化」を再構築するにはマンパワーが必要なのだと仰っていました。その再構築のため、子育ての文化継承の道筋についてお話し下さいました。それには「つながる場(子育て支援施設)」と「つなぐ人(子育て支援者)」が必要とのこと。いろんなところでの異年齢の人達との出会い、たくさんの人間浴によって自分の子育てが認められ、“子育てをする自分”を信じられるようになるとのこと。つまり自分の子育てに自信が持て親としての自尊感情が育つのだと仰っていました。その自身は次へ繋がる一歩になり「子育ての文化」の継承と発展になるとのこと。
いくら江戸時代の子育てが良かったと言っても江戸には戻れません。その時代に合うものを取捨選択しながら「子育ての文化」を伝えてやっていきたいとお話されました。そして、子育て支援者として、みんなで「お母さんのお母さんになろう」と呼びかけられました。実の母親や義母ではなく、第三の母親として対等に出来る事を目指したいとのこと。対等さのポイントとして、正解であっても先に言わない事、と教えて下さいました。失敗は人を成長させるため、その機会を奪わず相手に「寄り添う」ことを基本にしていきたいとのこと。

子育て支援の場を考えると色々な考え方があると仰いました。その中の一つとして「社会とのつながりの第一歩の場」を挙げられました。その場に来られる事を認められる、という事が大切となりそのような配慮が必要なのだと教えて下さいました。そのような配慮は、お母さんから1人の人間としての再確認の手助けとなり、地域社会で親としての第一歩を踏み出す力を付ける場になるとのこと。そのためにも「あなたも地域の一員」と伝える事が大切だと仰っていました。家の中で孤立するのではなく、地域、社会に「必要」だと言ってもらえることが自尊感情と喜びに繋がると感じました。そのため、一人の人として認める意味でも子育て支援の場では「匿名性の排除」と、参加者が自分で考えて動く事の出来る「利用者主体」が大切だと挙げられました。その視点を持ちながら子育てを支える地域の大切さを再確認したいとお話されました。

最後に、どんな子どもを育てるのか?見通しを持って子育てできる場にしたい、ということについてお話し下さいました。まずは、子ども自身が育とうとしている力を十分に発揮できるようにすること。子どもが「どっちかな」と悩んでいる時に決めつけてしまわないこと、決めつけは子どもが努力をして到達する事を削いでしまう事だと伝え、子どもの育ちの芽を摘まないように伝える支援者でありたいとお話されました。その為には子どもをどう育て、どう豊かにするか支援者自身が考え話し合うような場が必要なのだと仰っていました。それはまさしく3年間行ってきた15のまなびのような場だと感じました。

午後も15名ほどの方が残られ、自己紹介も含め活発な意見交換が出来ました。今までのまなびの意見も含め、抱き方など現場で技術を教える方がお母さん方に共感できること、技術を通しての方が「ちゃんとできてるよ」と受容した上で伝えられるが、それをさりげなく行うためには支援者は意識しないといけないのではないか、という意見など出ました。
毎回、本当にいろんなところから、多様な現場から来ていただき、繋がりの場にもなっていると感じます。今後、15のまなびがどのような形になるかまだ未定ですが、参加者の皆さんは15のまなびの場の大切さ、必要性を感じ、更にそこで学んだ事をどう発信していくかという課題を新たに持っておられるようでした。そのような方達の協力を得て、来年度の活動を考えていければ良いなと感じました。




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■子育ての文化研究所 info@kosodate-bunka.jp 担当(さこ)090-2703-5207